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    プロダクションノート

    企画の成り立ち

    奇跡的にほぼ同じタイミングで、本作の原作となる「スマホを落としただけなのに」(宝島社文庫)を読んでいたという企画・プロデュース=平野隆と、プロデューサー=刀根鉄太(以下、刀根P)。読了後すぐに映画化へ向けて動いたというが、原作者=志駕晃は作家としては本作がデビューとなる無名の新人。「むしろそこがよかったんです。SNSミステリーという新しいジャンルでここまで本格的な作品はなかったし、とにかく(物語の)入り口が面白い。ただ蓋を開けてみたら、志駕さんはラジオ局の大ベテランで驚きましたが(笑)」(刀根P)。
    メガホンをとるのは世界が認めるホラーの名匠=中田秀夫監督。「確かにホラーの名匠と言われていますが、『終わった人』でもお分かりのように、お分かりのように、中田監督は恐怖描写だけでなく人間描写に非常に長けている監督。是非ご一緒したいと思いました」(刀根P)。
    監督も含めた脚本作りの中で最も難航したのが、犯人像の描き方。映像としては早めに犯人が分かってしまうのを避けるために、監督から「長い髪に執着がある犯人像にして、かつらをかぶせたらどうだろうか?」というアイディアが出る。「それで犯人の顔も隠れるので一石二鳥でした。犯人が着ている白いサマードレスは、自分が母親になりきる母体回帰を象徴しています」(刀根P)。

    北川景子を筆頭に
    豪華キャスト陣が集結

    原作の志駕は「執筆時から麻美は北川景子さんをイメージしていた」と公言しているが、監督、製作陣共に「麻美は北川景子さんしかいない!」と第一オファー。ただ恐怖におびえるヒロインではなく、誰にも言えない秘密を抱える主人公という難役が予想されたが、北川は原作、脚本を読み快諾。“長く美しい黒髪”をキープするため、撮影中何度も髪を黒く染め続けるなど、麻美役への意気込みは並々ならぬものがあった。
    そして田中圭が、ちょっと頼りない麻美の恋人=富田に。「富田がスマホを落としたからこんなひどいことになっているのに、それでも愛されてしまう“人間力”が決め手でした。かっこよくなり過ぎない絶妙なバランスも、田中さんは見事に体現してくれましたね」(刀根P)。そして同じ辛い過去を背負いながら光と影の人生を歩むことになる加賀谷と浦野には、千葉雄大と成田凌。「この映画で初めて気付く方もいると思うのですが、お2人の目はとても似ているんです。衣裳合わせでそれに気付いた時、これはいける!と確信しました」(刀根P)。他にも原田泰造、バカリズム、要潤、高橋メアリージュン、酒井健太、筧美和子ら様々なジャンルから、個性豊かなキャスト陣が集結することに。

    死体役にマネキンはなし!
    過酷だが明るい中田組

    撮影は6月1日から7月5日までオールロケで行われた。撮影中はトレードマークのタオルを頭に巻き元気に走り回る監督を中心に、現場の雰囲気は意外なほど明るい。中田組では恒例だという“裏設定集”も全スタッフ、主要キャストに配布されたが、その名も「スマ落(おと)通信」。各キャラの年表、捜査現場の様子などが綿密に記され、全員がその情報を共有する。
    毒島(原田泰造)と加賀谷(千葉雄大)が最初に女性たちの遺体を発見する一連の森林のシーンは、まっすぐ歩くのもままならない大嵐の日であったが撮影は決行! 劇中、加賀谷がヒルに噛まれ取り乱すシーンもあるが、実際にヒルがうようよしている場所での過酷なロケとなった。しかも死体として土の中に埋まっている女性たちは、マネキン人形ではなく、まぎれもない本物の女優陣。厳正な“死体オーディション”を勝ち抜いた彼女たちの、ある意味体を張った熱演は見逃せない。
    麻美が知らない間に犯人に盗撮されているというカットは、監督から撮影中に出たアイディア。「盗撮シーンは、麻美を狙っている感が非常に出ていて効果的でしたね。監督はどうしたら人の心に残るものが撮れるかを緻密に計算されていらっしゃる。つまり人の心をとらえるのがとてもうまいんです」(刀根P)。

    北川景子の熱い女優魂

    今回、製作陣が常に感心させられていたのが北川景子の女優魂。鎖に繋がれての拷問シーンや、写真とはいえ大胆に背中を見せるカット、そして犯人の狂気的な芝居を全力で受ける器の大きさなど女優としての力量を遺憾なく発揮している。「北川さんはすべてのシーンに全力で挑んでくれました。背中を見せるカットも、僕らはここまでやってくれるとは正直思っていなかったのですが、北川さんの方からやりましょうと言ってくださって。原作でも大胆な描写になっているので、原作ファンを裏切りたくないという思いが強かったのかもしれません」(刀根P)。
    そしてクライマックスとなるメリーゴーランドの一連の撮影では、麻美の衝撃的な告白がかなりの長ゼリフで語られるが、なんとここも1発OK。撮影的には間に回想シーンも入れ込まれるため、途中途中は台本を見ながらでも成立するのだが、北川はあらかじめセリフを完璧に頭に入れてきたばかりでなく、麻美という女性の悲しい業をも見事に表現してみせた。「あそこは見ていて鳥肌が立ちました。ご本人は普段は役を引きずらないタイプらしいんですが、今回は撮影中ずっと麻美を引きずっていたとおっしゃっていたのも印象的です」(刀根P)。
    ちなみに、原作にはない遊園地という設定は監督からの発案。回り続けるメリーゴーランドで、2つの人生が交錯する――。非常に映画的な装置として生かされているが、大がかりなアクションもあり撮影はかなりハードなものに。それでも一切スタントを使うことなく、俳優陣の集中力で無事明け方までには撮り切ることができた。